店舗兼住宅リフォームで押さえるべきポイント
店舗の開業場所として、自宅や中古物件をリフォームした「店舗兼住宅」を選ぶ方が増えています。
店舗兼住宅では、居住スペースと店舗スペースが一緒になっているため、通常の店舗づくりとは異なるコンセプトの内装デザインが必要です。
この記事では、自宅での開業を考えている方を対象として、店舗兼住宅のメリット・デメリットや、リフォームのポイント、リフォーム費用の目安について解説します。
店舗兼住宅とは?店舗と住まいがセットになった物件のこと
店舗兼住宅とは、店舗付き住宅や店舗併用住宅とも呼ばれ、店舗と住まいが併設された物件のことです。税法上は、“1つの家屋の中に居住用部分と店舗用部分が一緒になっている家屋”と定義されます(※)。
一般的には、集客に有利とされる1階部分を路面店舗にリフォームし、2階以上を居住スペースとして利用する例が多く見られます。特に飲食店やカフェ、美容サロン、クリニックなど、小規模なお店に適した店舗形態です。
住み慣れた家で開業できる手軽さや、仕事とプライベートの両立がしやすいことから、開業場所にあえて店舗付き住宅を選ぶ方も少なくありません。これから自分の店を持ちたいと考えている方は、一つの選択肢として店舗付き住宅での開業を検討するとよいでしょう。
店舗兼住宅にリフォームする3つのメリット
既存の住まいを店舗兼住宅にリフォームするメリットは3つあります。
●家賃などの固定費の支払いを節約できる
●光熱費や固定資産税を必要経費として計上できる
●通勤時間がなく、仕事とプライベートを両立できる
今住んでいる家で開業すれば、新しくテナントを借りる必要がありません。テナントの家賃を払わなくて済むため、毎月の固定費の支払いを抑えることが可能です。
また店舗兼住宅では、家賃や光熱費、固定資産税、火災保険料などの支出のうち、事業に直接関わるものを必要経費として計上できます。建物の使用面積などで費用を按分し、プライベートな支出金額を除いて経費計上しましょう。
通勤時間をできるだけ減らし、仕事とプライベートを両立したい方も、店舗兼住宅での開業がおすすめです。店舗兼住宅なら、仕事の合間に家事をしたり、スキマ時間を趣味や勉強に活用したりと、自分のペースで店舗を運営できます。
店舗兼住宅にリフォームするデメリット
一方、店舗兼住宅にはデメリットも2つあります。
●立地条件が店舗のターゲットに遭わない可能性がある
●近隣住民から苦情やクレームがくる可能性がある
店舗を開業する上で、立地条件は売上に大きな影響を与えます。自宅がある場所によっては、店舗のターゲットと立地条件が合わず、集客に苦戦する可能性があります。例えばカフェを開業する場合、駅前や繁華街などと比べ、住宅地での需要は少ないため、独自性のあるコンセプトを打ち出すといった工夫が必要です。
また住宅地で店舗を開業すると、人の出入りが増え、近隣住民から苦情やクレームがくる可能性もあります。開業後の近隣トラブルを防止するため、騒音や悪臭には十分注意しましょう。
店舗兼住宅へリフォームする際の注意点
店舗兼住宅へのリフォームは、都市計画法に基づく用途地域の制限や、消防法などの関係法令を守って行う必要があります。
ここでは、住まいを店舗にリフォームする際の注意点を2つ紹介します。
●自宅がある場所の用途地域を確認する
●消防法への対応が必要か確認する
自宅がある場所の用途地域を確認する
用途地域とは、住宅地や商業地、工業地など、都市計画における土地利用の仕方を13種類に区分したものです。
住居専用地域であっても店舗は建てられますが、用途地域によって店舗面積に制限があります(※)。
用途地域 | 定義 |
第一種低層住居専用地域 | ・主に低層住宅のための地域 ・小規模な店舗・事務所を兼ねた住宅や、小中学校などを建てられる |
第二種低層住居専用地域 | ・主に低層住宅のための地域 ・小中学校などのほか、150㎡までの一定の面積の店舗などを建てられる |
第一種中高層住居専用地域 | ・中高層住宅のための地域 ・病院、大学、500㎡までの一定の面積の店舗などを建てられる |
第二種中高層住居専用地域 | ・主に中高層住宅のための地域 ・病院、大学などのほか、1,500㎡までの一定の規模の店舗や事務所など、必要な利便施設を建てられる |
第一種住居地域 | ・住居の環境を守るための地域 ・3,000㎡までの店舗、事務所、ホテルなどを建てられる |
第二種住居地域 | ・主に住居の環境を守るための地域 ・店舗、事務所、ホテル、カラオケボックスなどを建てられる |
特に注意したいのが、小規模な店舗兼住宅しか開業できない第一種低層住居専用地域と第二種低層住居専用地域です。
第一種低層住居専用地域
第一種低層住居専用地域は、低層住宅のために土地利用が制限された地域です。住宅や小中学校、図書館、診療所、保育所、老人ホームなどの建築物のほか、以下の要件を満たす店舗兼住宅を建てられます。
●兼用住宅で、非住宅部分の床面積が、50㎡以下かつ建築物の延べ面積の2分の1以下のもの(※)
ただし、事務所や宿泊施設(旅館やホテル)などの開業は認められません。
第二種低層住居専用地域
第二種低層住居専用地域は、主に低層住宅のための地域を指し、第一種低層住居専用地域よりも規制がゆるやかです。店舗部分の階数が2階以下であれば、床面積が150㎡までの店舗兼住宅を建てられます(※)。
ただし、業種は日用品販売店舗、喫茶店、理髪店、建具屋など、サービス業に関する店舗に限られます。第一種低層住居専用地域と同様に、事務所や宿泊施設の開業は認められません。
消防法への対応が必要か確認する
消防法には、店舗兼住宅などを対象とした「小規模事業所に対する消防法令」があります。店舗スペースと居住スペースの床面積の比率によって、消防法における取り扱いが変わってきます(※)。
一般住宅部分(注)>事業所部分 | 事業所部分≦50㎡ | 一般住宅 |
事業所部分≦50㎡ | 複合用途防火対象物(一般住宅と事業所部分の複合) | |
一般住宅部分≒事業所部分 | ||
一般住宅部分<事業所部分 | 事業所※用途は事業所部分の判定による |
店舗として開業していても、事業所部分が一般住宅部分より狭く、床面積が50㎡以下の場合、消防法上は一般住宅として取り扱われます。
一方、事業所部分が50㎡を超えるか、床面積の比率が一般住宅部分を上回る場合は、複合用途防火対象物または事業所の区分となります。店舗の延べ面積や収容人員によっては、消防機関への届出が必要です(※)。
消防機関への届出 | 義務対象 |
防火管理者の選任届 | 収容人員 ・特定用途:30人以上 ・非特定用途:50人以上 |
消防用設備等の設置届 | 延べ面積300㎡以上 |
第一種中高層住居専用地域 | ・中高層住宅のための地域 ・病院、大学、500㎡までの一定の面積の店舗などを建てられる |
防火対象物の使用開始届 | 全ての防火対象物 |
※総務省消防庁「小規模事業所に対する消防法令の適用」p1
店舗兼住宅の内装デザインや空間設計のポイント

ここでは、店舗兼住宅の内装デザインや空間設計のポイントを4つ紹介します。
●店舗と住宅部分の動線を意識した設計にする
● 店舗は集客に有利な1階部分に設ける
●目を引く外観やファサードにする
●メンテナンス性も考慮してリフォームする
店舗と住宅部分の動線を意識した設計にする
店舗兼住宅は、店舗と住宅が一つの建物に集まった物件です。リフォームする際は、仕事とプライベートの動線を分け、快適かつ機能的な空間設計を意識しましょう。
店舗は集客に有利な1階部分に設ける
店舗スペースは、集客面で有利な1階に設けることをおすすめします。建物の1階は道路に面しているため、通行人の目に留まりやすく、お店の存在を認知してもらいやすいという特徴があるからです。建物の1階に店舗を配置し、集客力を高めましょう。
目を引く外観やファサードにする
外観が一般住宅のままでは、通行人の注意を引くことはできません。目立つ看板を設置したり、印象的なファサードをデザインしたりして、一目で店舗とわかるような外観にリフォームしましょう。
また道路に面する側に大きな窓を設けたり、入口をガラス張りにしたりするのもよいでしょう。外から店内の様子がわかるため、入店のハードルが下がります。
メンテナンス性も考慮してリフォームする
店舗兼住宅のリフォームでは、建物の耐久性やメンテナンス性も考慮しましょう。おしゃれな見た目でも、すぐに変色したりひび割れしたりする部材を選ぶと、メンテナンス費用がかかります。
また修繕工事や塗り替え工事を行う間は、店舗を営業できません。長期的な視点で見ると、メンテナンス性の高い部材を選定した方がコストを節約できます。
店舗兼住宅のリフォーム費用の目安は200万~300万円
店舗兼住宅のリフォーム費用は、200万~300万円が目安です。ただし、開業する業種や、物件の延べ面積、店舗・住宅部分の構造、耐震補強の有無などの条件によって、リフォーム費用は変わってきます。
例えば、5~6坪のスペースでカフェを開業する場合、リフォーム費用の目安は約100万円です。物件の状況や工事の規模によっては、さらにリフォーム費用を節約できる場合もあります。
店舗兼住宅のリフォームに住宅ローンは使えない?
住宅ローンは、基本的に住まいの建築や購入、リフォームのためのローンです。店舗兼住宅の場合、店舗や事務所のスペースを除く、住宅部分のリフォームにしか住宅ローンを利用できない可能性があります(フラット35など)。
住宅ローン商品によっては、店舗部分のリフォームも借り入れの対象となります。ただしその場合も、「住宅部分の床面積が全体の2分の1以上あること」など、条件が付くことが一般的です。
店舗兼住宅へリフォームする際に押さえておきたいポイント

店舗兼住宅へのリフォームにあたって、押さえておきたいポイントは4つあります。
●店舗兼住宅のリフォームが得意な施工業者を選ぶ
●余裕を持ってリフォームのスケジュールを立てる
●必要な許認可や法的手続きを把握しておく
●近隣への工事騒音などのトラブルに備えておく
店舗兼住宅のリフォームが得意な施工業者を選ぶ
住まいのリフォームや店舗内装、オフィスデザインなど、施工業者によって得意分野が異なります。自宅を店舗に改装するなら、店舗兼住宅のリフォームが得意な施工業者を選ぶことが大切です。施工業者のホームページや口コミサイトなどを活用し、過去の施工実績を確認しましょう。
余裕を持ってリフォームのスケジュールを立てる
店舗兼住宅のリフォームには、数カ月から半年ほどの期間が必要です。リフォーム工事のほかにも、従業員の採用・教育や広告宣伝、開業に必要な許認可や届出など、やるべきことはたくさんあります。店舗のオープン日から逆算して、余裕を持ってリフォーム計画を立てましょう。
必要な許認可や法的手続きを把握する
店舗兼住宅へのリフォームにあたって、必要な許認可や法的手続きを把握しておきましょう。例えば、住宅の一部を特殊建築物(飲食店など)へ用途変更する場合、店舗部分の面積によっては建築確認申請が必要です。
ただし、2019年6月の建築基準法改正により、建築確認が必要な特殊建築物の規模が100㎡から200㎡に引き上げられました(※)。小規模な店舗兼住宅の場合、手続きは不要です。
※国土交通省「建築基準法改正により小規模な建築物の用途変更の手続きが不要となりました!」p2
近隣への工事騒音などのトラブルに備えておく
住宅地でリフォーム工事を行うと、騒音や振動、粉じんが発生する可能性があります。あらかじめ近隣に挨拶回りをするなど、工事中のトラブルを想定して対策をしましょう。
まとめ:店舗兼住宅へのリフォームのポイントや注意点を知ろう
店舗兼住宅は、一つの建物に住まいとお店が併設された店舗形態です。家賃の支払いを節約できるだけでなく、仕事とプライベートを両立し、自分のペースで店舗を運営できるというメリットがあります。
店舗兼住宅のリフォーム工事には、通常の店舗と異なり、住まいの快適さとお店としての機能性を両立させる工夫が必要です。店舗兼住宅へのリフォームのポイントや、リフォーム工事に関わる法令などの注意点を知っておきましょう。
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