飲食店の内装デザインにおける色使いの秘訣

  • 2025.3.24

  • 最終更新日:


飲食業は競合が多く、官公庁の調査でも開業率・廃業率がともに高い傾向にある業種です(※)。新しく飲食店を開業する方が、同じ地域の大手飲食チェーン店などとの生存競争を生き抜くには、ほかの店舗にはない独自性を打ち出す必要があります。

オリジナリティあふれる店づくりにつながる要素の一つが、店舗の内装デザインです。この記事では、飲食店の内装デザインにおいて重要な「色使い」について、基本知識や色選びのポイント、色別の注意点を解説します。

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飲食店の内装デザインで「色の使い方」が大切な理由

色には、見た人の心に働きかけ、特定の感情を呼び起こす力があることが知られています。この効果は、色彩心理学で「色彩効果」と呼ばれるものです。

飲食店のイメージも、店舗の内装や飾り付け、照明、テーブルクロスなどに使われる「色」によって、さまざまに変化します。内装デザインを決める際は、配色や色使いを意識して、「色の力」を生かすことが大切です。

ここでは、飲食店の内装デザインにおいて、色の使い方が重要である理由を2つ紹介します。

●色によっては食欲を増進させる効果があるため
●店内の居心地の良さにも色が関わっているため


色によっては食欲を増進させる効果があるため

色の中には、人間の食欲に働きかけるものもあります。食欲を増進させる色もあれば、逆に減退させてしまう色もあるため、特に飲食店では色使いに注意が必要です。

例えば、食欲と関係があるとされる色には、以下のようなものがあります。

食欲が増幅する色 赤、黄色、オレンジなど(暖色系)
食欲が減退する色 青、紫、青緑色など(寒色系)

一般的に赤や黄色、オレンジなどの暖色系の色は食欲を増幅させ、青や紫、青緑色などの寒色系の色は食欲を減退させると言われています。こうした色彩効果をうまく活用することで、お客さまの空腹感を刺激し、飲食店の売上アップにつながるでしょう。


店内の居心地の良さにも色が関わっているため

色には、見る人の安らぎや落ち着きを与える効果もあります。例えば、メンタルケアの一種であるカラーセラピーも、色の力によって心身のバランスを整える心理療法です。

飲食店の内装デザインにも、お客さまをリラックスさせる色を取り入れることで、居心地の良い店舗づくりにつながります。例えば、リラックス効果のある色には、以下のようなものがあります。

●白
●グレー
●水色
●茶色やベージュ
●薄いグリーン
●淡いピンク


飲食店の経営者が知っておきたい色の基本知識

人間には、視覚・嗅覚・触覚・味覚・聴覚という五感が備わっています。しかし、過去の研究によると、外部の情報の8割以上は視覚神経系によって処理されるとも言われています(※)。

飲食店の内装デザインでは、視覚に働きかける「色」の正しい使い方を知っておくことが大切です。ここでは、飲食店の経営者が知っておきたい色の基本知識を紹介します。

東京大学医学部附属病院「視覚神経系の仕組みの解明に新たな手がかり」p1


暖色系(赤・オレンジ・黄色)の特徴


暖色とは、赤やオレンジ、黄色など、見る人が「温かさ」を感じる色を指します。実際に暖色系の色を見ると、血圧や脈拍数が上昇し、体温が高くなることが分かっています。暖色系の色が食欲を増進させると言われるのも、体温の上昇により、内蔵の働きが活発化するためです。

また暖色系の色は、料理の見栄えの良さにも影響します。一般的に色味が濃いほど、食材の美味しさを引き立てることが可能です。飲食店の内装デザインに暖色系の色を取り入れることで、普段以上に料理を美味しく見せられるでしょう。


寒色系(青・紫・青緑色)の特徴

寒色とは、青や紫、青緑色など、見る人が「冷たさ」を感じる色のことです。暖色系の色とは逆に、寒色系の色には血圧や脈拍数を低下させる効果があります。そのため、寒色系の色を見ると、血流や内蔵の働きが悪くなり、食欲が減退すると言われています。

特に青は、自然界には存在せず、人間の脳にとって食べ物として認識しにくい色です。青色を見ると食欲が落ちてしまうことから、飲食店の内装デザインでは使用を避けるとよいでしょう。

ただし、色には色相(色味の違い)の他にも、彩度や明度といった要素もあります。

色の基本要素 特徴
色相 赤や青、黄など、色味の違いのこと
彩度 色の鮮やかさの度合いのこと
明度 色の明るさの度合いのこと

例えば、原色の青ではなく、淡い色調のパステルカラー(明度が高く、彩度が低い色)を採用すれば、食欲を減退させる効果を軽減できます。薄い水色やグリーンには、店内にくつろぎをもたらす効果があるため、「テーブル周りではなく壁紙に採用する」など、適材適所で取り入れるとよいでしょう。


食欲を増進させる色の組み合わせを知っておこう

色には、補色調和・類似色調和・同系色調和という3つの組み合わせがあります。複数の色を組み合わせることで、色彩効果をさらに高めることが可能です。

補色調和 色相が対象的なものを組み合わせ、互いの色を引き立たせること ・赤と緑
・青とオレンジ
・白と黒
・黄色と紫など
類似色調和 系統が似通った色や、彩度・明度がよく似た色を組み合わせること ・赤とオレンジ
・黄色とオレンジ
・青と水色
・水色と紫など
同系色調和 同じ系統の色のうち、濃淡や明るさが異なるものを組み合わせること ・濃い赤と薄い赤
・濃い茶色と薄い茶色など

こうした色の組み合わせは、店舗の内装デザインだけでなく、料理を美味しく見せるテクニックとしても使われています。例えば、サラダにトマトを盛り付けると彩りが良くなるのは、赤と緑の補色調和が働くからです。

飲食店の内装デザインにおいても、補色調和・類似色調和・同系色調和の3つの組み合わせを活用し、食欲を増進させる暖色系の色の効果を高めるとよいでしょう。


文化や地域によって「美味しい」色は異なる


「美味しい」と感じる色は、実は世界共通ではありません。将来、海外への出店を計画している方は、文化や地域による色の感じ方の違いを考慮する必要があります。

例えば、卵料理を例に挙げると、日本では卵黄が濃い黄色のものを美味しいと感じる傾向があるのに対し、欧米やインドでは白っぽく、淡白な色合いの卵が好まれます。飲食店の内装デザインにおいても、事前に十分な調査を行い、現地で好まれやすい配色になるように工夫しましょう。


食欲を増進させる!飲食店の内装デザインの色使いのポイント

ここでは、来店したお客さまの空腹感を刺激する、内装デザインの色使いのポイントを4つ紹介します。

●赤や黄色、オレンジなどの暖色系でまとめる
●たくさんの色を使いすぎず、3色以内に抑える
●上半分は明るく、下半分は暗めの色にする
●照明の色温度も考慮してデザインする


赤や黄色、オレンジなどの暖色系でまとめる

飲食店の内装には、食欲を増進させる効果のある暖色系の色を取り入れましょう。特に赤や黄色、オレンジなどの色は、系統が似通った「類似色調和」の関係にあるため、まとまりのある配色に仕上げられるのもメリットです。

天井や壁、床などの仕上げ材だけでなく、店舗の看板や照明、飾り付け、テーブル周り(食器やテーブルクロスなど)も暖色系でまとめると、色彩効果をさらに高められます。


たくさんの色を使いすぎず、3色以内に抑える

ただし、内装デザインに使用する色は、3色までに抑えるようにしましょう。色をたくさん使いすぎると、店内が雑多でごちゃごちゃした印象になってしまいます。

内装デザインの色使いの基本は、ベースカラー、メインカラー、アクセントカラーの3色です。

ベースカラー 天井や壁、床など、店舗の基礎となる部分に使われる色
メインカラー カーテンやカーペット、テーブルなど、家具やインテリアに使われる色
アクセントカラー テーブルクロスやクッション、観葉植物、食器など、アクセントとなる小物類に使われる色

ベースカラー、メインカラー、アクセントカラーの調和を意識して配色を決めることで、統一感がありすっきりした印象になります。


上半分は明るく、下半分は暗めの色にする

飲食店の内装デザインでは、上から下にかけて、色の明度を変えることをおすすめします。同系色調和の原理により、上品で落ち着いた雰囲気を作り出せるからです。テーブルの高さを基準として、天井や壁は明るく、椅子や床などは暗めの色合いにするとよいでしょう。


照明の色温度も考慮してデザインする


照明が発する光の色味のことを「色温度」と言います。照明の色温度によって、店内の印象が大きく変わってくるため、飲食店に適したものを選ぶことが大切です。

照明の色温度は、電球色・温白色・昼白色・昼光色の4種類に分けられます。

照明の色温度 特徴
電球色 夕焼けに似たオレンジがかった温かみがあり、落ち着いた印象の光
温白色 電球色よりも薄いオレンジ色で、明るさと落ち着きを両立した光
昼白色 日中の自然な太陽光に近く、生き生きとした印象の光
昼光色 青みがかった色合いで、まぶしく脳を覚醒させる光

一般的に、飲食店ではリラックス効果の得られる電球色か、温白色の照明が適していると言われています。内装デザインのベースカラーやメインカラー、アクセントカラーとの組み合わせも考慮しながら、照明の色温度を選びましょう。


【色別】飲食店で使用した場合の仕上がりイメージや注意点

内装デザインの色使いによって、仕上がりがどのように変わるか知りたい方も多いでしょう。ここでは、内装デザインの仕上がりイメージや、色選びの注意点について、6つの色別に解説します。


赤色


赤色は、暖色系の色の中でも食欲を増進させる効果が高く、飲食店の内装デザインによく使われる色の一つです。アドレナリンの分泌を促す効果もあることから、赤色をベースカラーやメインカラーに採用すると、店内が明るくにぎやかな印象になります。

じっくり食事を楽しむタイプの店舗よりも、客席の回転率が高い、ファストフード店の内装デザインに取り入れるとよいでしょう。


オレンジ色

オレンジ色も、食欲を増進させる効果が期待できる暖色系の色です。興奮作用のある赤色と異なり、オレンジ色にはお客さまの緊張感を和らげ、くつろぎをもたらす効果が期待できます。

楽しく、陽気な気分にしてくれる効果もあることから、ファミリー向けのレストランに採用されることが一般的です。


黄色

黄色も、赤色やオレンジ色と並ぶ暖色系の色です。色彩心理学では、黄色には明るさや活発さ、喜びをもたらす効果があるとされています。

特に原色に近い黄色には、元気で生き生きとしたイメージがあることから、子どもや10代の若者をターゲットとした飲食店におすすめです。


グリーン

グリーンは、暖色系と寒色系の中間に当たる「中性色」に分類される色です。山や森林など、自然環境に多い色であることから、心を癒やし、リラックスさせる効果が期待できます。

また補色調和により、赤色とグリーンを組み合わせることで、互いの色彩効果が引き立ちます。


ブルー


ブルーは、食欲を減退させる寒色系の色です。自然の食べ物には存在しない色でもあり、ベースカラーやメインカラーへの使用は避けた方が良いでしょう。

ただし、あえてブルーを取り入れることで、お客さまの印象に残る店づくりにつながった例もあります。特にパステルカラーの水色は、爽やかでポップな雰囲気を演出することが可能です。競合店との差別化のため、アクセントカラーとしてブルーを採用するのもよいでしょう。


ブラウン

ブラウンは、グリーンと同様に自然を連想させる、暖色系の色です。ブラウンとグリーンを合わせて、アースカラーと呼ぶ場合もあります。居心地が良く、落ち着いた空間を演出したい場合は、内装デザインにアースカラーを採用するとよいでしょう。

ただし、ベースカラーやメインカラーにブラウンを採用すると、店内が暗く地味な印象になってしまう可能性があります。アクセントカラーとして、白や黒などの目立つ色と組み合わせるとよいでしょう。

また同じブラウン系統の色でも、お店の上半分は明るいベージュ、床には濃いカーキやテラコッタなどを採用するのがおすすめです。上から下にかけて明度を変化させることにより、上品で落ち着いた印象の内装デザインになります。


まとめ:飲食店の内装デザインの色使いを工夫し、お客さまの食欲を増進させよう

飲食店の集客力を高めるには、内装デザインにおける「色の使い方」を工夫することが大切です。

色には、見た人のさまざまな感情を呼び起こす、心理的な効果があると言われています。例えば、赤や黄色、オレンジなどの暖色系の色には、食欲を増進させる効果があるため、飲食店の内装デザインに積極的に取り入れるとよいでしょう。

ただし、食欲を減退させるとされる青や紫、青緑色などの寒色系の色も、使い方によっては効果的です。アクセントカラーとして使用したり、彩度・明度を工夫したりすることにより、印象に残る内装デザインに仕上げられます。

開業率・廃業率が高い飲食業では、他の競合店にはない独自性を打ち出すことが重要です。内装デザインの色使いに迷う場合は、設計事務所やデザイン事務所などの専門家に相談することをおすすめします。


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