照明の基本:店舗・オフィス照明設計ガイド

  • 2025.2.12

  • 最終更新日:


照明設計とは、照明の明るさや色味を工夫し、その場にふさわしい空間を演出することを指します。理想の店舗やオフィスを実現するには、適切な照明設計が欠かせません。

この記事では、照明設計の際に知っておきたい基礎知識や、店舗・オフィスにおける照明設計のポイント、よくある失敗事例やその解決策を紹介します。


照明設計の際に知っておきたい基礎知識


まずは色温度や照度、光源の種類など、照明設計における基礎知識を学びましょう。


色温度は光が持つさまざまな色のこと

色温度とは、光源が発する光の色をケルビン(K)という単位で表したものです。同じ明るさの光源でも、色温度が異なると、見る人が受けるイメージは大きく変わります。一般的に、色温度が高いほど青白く冷たい印象になり、色温度が低いほど暖かく落ち着いた印象になります。

照明設計では、その場の雰囲気に合わせた色温度の光源を選ぶことが大切です。


照度はその場所の明るさのこと

照度とは、光源の明るさをルクス(lx)という単位で表したものです。日本工業規格(JIS)によって、その空間の用途や作業内容に応じた「推奨照度」が定められています。

照明設計では、働く人や来店した顧客が快適に過ごせるよう、必要な明るさを確保することが大切です。

特にオフィスでは、室内の明るさが作業効率に大きく影響します。労働安全衛生法では、視力の低下などの健康障害を防止するため、職場における照度基準を設けています。


主な光源は5種類ある

店舗やオフィスの照明に用いられる光源は、大きく5種類に分けられます。

光源の種類 特徴
白熱電球

●電力の変換効率が低く、寿命が短い
●演色性に優れ、自然光に近い見え方をする

蛍光ランプ

●電力の変換効率が高く、熱の発生量が少ない
●演色性は悪いが、グレア(まぶしさ)が発生しにくい

高輝度放電ランプ(HIDランプ)

●工場や商業施設など、高圧電力を使用する施設で用いられる
●サイズが小さいため、省スペース性が高い

低圧ナトリウムランプ

●電力の変換効率が非常に高く、長寿命で経済的
●演色性が非常に悪いため、色の判別が難しい

LED

●消費電力が少なく、電気代が安い
●明るさや色温度を調節できる


照明器具の配置を最適化する

照明器具の間隔が広すぎると、部分的に照度が低くなり、暗い場所ができてしまいます。光源の種類や明るさを考慮し、照明器具の配置を最適化することが大切です。

照明設計では、空間全体の明暗のバランスのことを「照度分布」といいます。店舗やオフィスのコンセプトによっては、あえて明るさにメリハリをつけ、空間演出を行う場合もあります。


省エネや環境への影響を考慮する

店舗やオフィスに設置する照明器具は、できるだけ消費電力が低く、経済性が高いものを選びましょう。電気代を節約できるだけでなく、節電や省エネにもつながります。発電による二酸化炭素の排出量が削減されるため、環境への影響を抑えることが可能です。



店舗における照明設計の5つのポイント


店舗における照明設計のポイントは5つあります。

  • 照明を工夫して商品の魅力を引き立てる
  • 通路やレジ周りも必要な明るさを確保する
  • 店舗の業態やコンセプトに合わせる
  • 外光の変化に合わせて照度を変える
  • 調光・調色システムを有効活用する

1. 照明を工夫して商品の魅力を引き立てる

店舗の照明によって、商品の見え方(色合いや素材感など)は大きく変わります。特に店頭やショーウィンドウなど、集客において重要度が高い場所は、照明による演出効果を強く意識しましょう。

光の当たり方によって、商品に暗い影ができていたり、反射グレア(反射光のまぶしさ)が生じたりしていないかを確認することも大切です。


2. 通路やレジ周りも必要な明るさを確保する

店舗の照明設計では、スタッフの作業に必要な明るさを確保することも大切です。

例えば、レジ回りは会計でのミスを防ぐため、手元を明るく照らす必要があります。日本工業規格(JIS)の照度基準でも、レジスターでの作業時に推奨される照度は、750~1,500ルクスと定められています。

一方、階段や通路は、必要最低限の明るさを確保しつつ、空間演出を意識するとよいでしょう。省エネの観点では、人感センサー付きの照明器具がおすすめです。人がいないときは自動的に消灯するため、電気代を節約できます。


3. 店舗の業態やコンセプトに合わせる

店舗の照明は、お店の業態やコンセプトに合ったものを選ぶことが大切です。例えば、落ち着いた雰囲気を演出したい場合は、暖色系の光源を採用し、照度を抑えるとよいでしょう。

照明の明るさや色温度によって、来店客が受けるイメージは変わります。店舗の雰囲気作りの一環として、照明設計を行いましょう。


4. 外光の変化に合わせて照度を変える

店舗が通りに面している場合は、外から入ってくる自然光も考慮して、照明の明るさを決める必要があります。

例えば、自然光が差し込む窓側は、照度を低く設定すると省エネにつながります。一方、店内は相対的に暗く見えるため、照度を高めにするとよいでしょう。外光は太陽の動きに合わせて変化するため、時間帯によって照明の明るさを調節することも大切です。


5. 調光・調色システムを有効活用する

調光・調色システムは、店内の照明を一括で制御できるシステムです。1日の変化に合わせて、照明の明るさや色温度を調節したい場合は、調光・調色システムの導入をおすすめします。

例えば、開店直後は照度を上げて活気のある雰囲気作りをする、夜間は色温度を低くしてくつろぎ感を演出する、といった使い方が可能です。



オフィスにおける照明設計の5つのポイント


オフィスにおける照明設計のポイントは5つあります。

  • ワークスペースは高照度にして作業効率を高める
  • 会議室は照明制御によって明るさを変える
  • リフレッシュスペースはくつろぎ感を演出する
  • タスク&アンビエント照明の考え方を取り入れる
  • 快適な視環境を整えて従業員の健康を守る

1. ワークスペースは高照度にして作業効率を高める

オフィスのワークスペースは、作業効率を高めるため、照明を明るくしましょう。照度を上げると、交感神経が活発化し、集中力が高まる効果が期待できます。また色温度も高くし、白色光の照明を採用することで、日中の眠気が軽減されます。


2. 会議室は照明制御によって明るさを変える

会議室では、照明制御システムの導入をおすすめします。通常のミーティングや、プロジェクターを使ったプレゼンテーションなど、会議室の用途に合わせて明るさを変更できます。また照明の向きを調節し、プロジェクターやホワイトボードの視認性を高めることも可能です。


3. リフレッシュスペースはくつろぎ感を演出する

リフレッシュスペースは、色温度の低い暖色系の照明を採用し、リラックス効果を高めましょう。くつろぎ感のある空間を演出して、ワークスペースとのメリハリをつけることが大切です。


4. タスク&アンビエント照明の考え方を取り入れる

タスク&アンビエント照明とは、作業領域を照らすタスクライトと、周辺領域を照らすアンビエントライトの2種類の照明を組み合わせる手法です。

区分
作業領域(タスク) デスク、パソコン、キーボード、ディスプレイ、書類など
周辺領域(アンビエント) 天井、壁など

メイン照明のみを設置する従来の手法と比べ、柔軟に照度を調節できます。例えば、夏季はタスクライトのみ点灯して、業務に必要な照度を確保しつつ節電を図る、といった照明プランが実現可能です。


5. 快適な視環境を整えて従業員の健康を守る

従業員の健康を守るには、オフィスの照明設計において、最低限の照度を確保することが大切です。照度が不足している場合、視力の低下や眼精疲労、不適切な姿勢を続けることによる上肢障害など、さまざまな健康障害が起きる可能性があります。

そのため、事務所衛生基準規則や労働安全衛生規則などの省令では、健康障害を防止するための照度基準が定められています(※)。

作業の区分 基準
一般的な事務作業 300ルクス以上
付随的な事務作業(注) 150ルクス以上

注:事務作業のうち、文字を読み込んだり資料を細かく識別したりする必要のないものを指します。

※厚生労働省「ご存知ですか?職場における労働衛生基準が変わりました」p3



照明器具の種類やおすすめの用途を紹介

照明器具といっても、実はさまざまな種類があります。照明の用途や設置する場所に合わせて、最適な照明器具を選ぶことが大切です。

  • シーリングライト
  • ダウンライト
  • ペンダントライト
  • スポットライト
  • シャンデリア
  • ブラケットライト
  • スタンドライト
  • フットライト

シーリングライト


シーリングライトは、天井(シーリング)に取り付けるタイプの照明器具です。空間全体を均質な明るさで照らせるため、メイン照明として用いられることが一般的です。省スペース性にも優れることから、店舗やオフィスだけでなく、一般家庭でも採用されます。


ダウンライト


ダウンライトは、天井に埋め込むタイプの照明器具です。照度は低いものの、照明器具の位置が目立ちにくく、デザイン性に優れます。空間を広くすっきりと見せる効果が期待できるため、ショッピングモールなどの商業施設では、ダウンライトを設置することが一般的です。


ペンダントライト


ペンダントライトは、天井から吊り下げるタイプの照明器具です。シーリングライトと比べ、光源の位置が低いため、空間の一部を強調したい場合に用いられます。照明器具自体のデザイン性が高いものも多く、店舗のインテリアとしてもおすすめです。


スポットライト


スポットライトは、スポット照明とも呼ばれ、元は舞台演出のために用いられた照明器具です。光に指向性があり、特定の場所を明るく照らしたい場合に適しています。天井や壁に取り付けるタイプの他、スタンド型もあります。


シャンデリア


シャンデリアは、華やかな装飾が施された大型の照明器具です。中世ヨーロッパの宮殿に用いられた蝋燭立てが起源の一つとされています。多くの電球を用いるため、電気代がかかるというデメリットがありましたが、近年はLED電球の普及により、低コストで導入できます。


ブラケットライト


ブラケットライトは、ウォールランプとも呼ばれ、壁面や柱に取り付けるタイプの照明器具です。比較的小型のものが多く、主に補助照明として用いられます。空間の一部にアクセントをつけ、立体感や奥行きを演出したい場合におすすめです。


スタンドライト


スタンドライトは、フロアランプとも呼ばれ、床の上に置くタイプの照明器具です。ブラケットライトと同様に、空間を演出する補助照明として用いられます。天井や壁に取り付けるタイプの照明器具と異なり、必要に応じて光源を移動させることが可能です。


フットライト


フットライトは、足元を明るく照らすための照明器具です。主に階段や廊下に設置し、夜間の安全性を確保するために用いられます。



照明設計のよくある失敗事例やその解決策


ここでは、照明設計のよくある失敗事例や、その解決策を紹介します。

照明計画で見落としやすい3つのポイント

照明設計を考える際に、見落としやすいポイントは3つあります。

  • グレア(まぶしさ)が生じている
  • 照度レベルと色温度が合っていない
  • 顧客の動線を誘導していない

グレア(まぶしさ)が生じている

明るい照明を設置すると、光の反射によってまぶしさを感じたり、物が見えづらくなったりする場合があります。この現象を「グレア」といいます。

照明設計では、グレアを引き起こさないように照明を配置することが大切です。特にLEDはグレアが発生しやすいため、慎重に照明計画を考える必要があります。


照度レベルと色温度が合っていない

照明の色温度が、照度レベルと合っていない場合、不快感を引き起こす可能性があります。

例えば、照度レベルの高い場所で色温度が低い暖色系の光を使用すると、暑苦しく感じられ、逆に照度レベルが低い場所で色温度の高い寒色系の光を使用した場合、暗く陰鬱な雰囲気になってしまいます。

照明計画を立てる際は、照度レベルと色温度が合っているか確認しましょう。


顧客の動線を誘導していない

店舗の照明には、来店した顧客の視線を自然と誘導し、店内を回遊するように働きかける役割があります。そのため、照明設計は顧客の購買行動に大きな影響を及ぼす要素の一つです。

照明の配置が顧客の動線と一致していないと、顧客が売り場から売り場へと移動せず、売上の低下につながる可能性があります。顧客の動線をイメージして、照明の種類や配置を検討しましょう。


LEDへの交換には落とし穴がある?

既存の照明器具をLEDに交換し、電気代を節約しようと考えている方も多いでしょう。特に一般照明用の蛍光ランプの製造が、2027年までに廃止されることが決まったため、蛍光ランプをLEDへ交換する方が増えています(※)。

しかし、蛍光ランプ用の器具にLEDを取り付けると、十分な節電効果が得られないだけでなく、漏電や火災の原因になる可能性があります。LEDに交換する際は、必ず照明器具の付け替え工事を依頼してください。

※環境省「一般照明用の蛍光ランプの製造・輸出入は2027年までに廃止されます」p1



まとめ:店舗やオフィスにおける照明設計の基本を知ろう

照明設計では、色温度や照度、光源の種類、照明器具の配置間隔など、さまざまな要素を考慮する必要があります。ただ空間を明るくするだけでなく、業態やコンセプトに合った光色を採用したり、時間帯に合わせて照度を変えたりすることが大切です。店舗やオフィスにおける、照明設計のポイントを学びましょう。


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